2002年10月

大阪大学大学院での学習に備えて(経済学専攻)

                  大阪大学社会経済研究所 池田新介・大竹文雄

1.はじめに

大学院入学後の1年目の授業は、ミクロ経済学・マクロ経済学・エコノメトリックスについて、最新の論文が読めるようになるための基礎的な講義が中心になる。学部の授業と違って、多くの練習問題をきちんと解いていかないと単位の取得は難しい。講義は、入学以前で一定レベルの経済学を修得していることを前提に行われる。特に、数学的な準備に欠けていると講義についていくことが困難になるケースがしばしば見られるので、その点、注意されたい。
 
大学院入学までの期間に最低限どの程度の準備が必要かについて、以下英語、数学、ミクロ経済学、マクロ経済学、エコノメトリックスについて説明してみたい。説明は、必要最低限のレベルと大学院初年度のレベルに分けて行う。
 
重要な点は、時間的に余裕のあるこの時期にしっかりと基礎を作っておくことである。とくに、将来博士後期課程に進学して研究者となることを考えているものは、数学・英語に関して十分な準備を望む。余力のある学生は、上級テキストに挑戦することを勧めるが、現段階で上級テキストが理解できないからといって過度に悲観したり自信をなくす必要は全くない。そのために大学院の授業がある。 

2.大学院入学までに最低限修得しておくべきレベル

数学については基本的な線形代数と解析について理解しておくことが必要である。ミクロ経済学については、主体的均衡と市場均衡について、概念をしっかり理解しておくことが重要である。大学院入学後は、かなり技術的な訓練を受けるため、ミクロ経済学の構造をしっかり理解しておくことが、入学の段階で不可欠となる。マクロ経済学については、大学院レベルでは動学的一般均衡理論という色彩が強いので、新古典派経済成長論など動学的なものの考え方について理解を深めておくことが大切である。エコノメトリックスは、初等統計学の知識と、線形回帰モデルについての基本的な知識をもっていることが必要である。必要な本を表1にまとめた。

 
表1 大学院入学準備として最低限必要なレベルの教科書

数学 チャン、A.C.『現代経済学の数学基礎上・下』、シーエーピー出版
ミクロ 西村和雄『ミクロ経済学』東洋経済新報社
マクロ マンキュウー、N.G.『マクロ経済学T、U』東洋経済新報社
エコノメトリックス 山本拓『計量経済学』、新世社

 

英語

大学院入学後は、膨大な量の英語文献を読んで理解することが必要であるので、経済学の英語の論文を読むことに慣れておくことは重要である。
 
経済学関連の英語の文献を読み始めるにあたって一つの方法は、Journal of Economic Perspectivesという雑誌(ほとんどの大学図書館は定期購読している)の論文を読むことである。この雑誌には、高度な専門知識を必要としない論文が掲載されているので、関心のあるテーマの論文をコピーして読むことを勧める。
 
短い一冊の本を読み通すことも練習になる。例として以下の書物をあげておく。
 


3. 科目別概説

科目別にテキストを紹介する。大学院の授業で前提とされている基礎概念をしっかりと確認していくことに重点をおかれたい。

(1) 数学

数学の準備が足りないために、大学院の講義に全く付いていけない学生が出ている。大学院で最低限必要なレベルの数学は、特に高度なものではない。準備をきちんとすれば、ついていけるものである。経済学に必要な数学の入門書としては

が分かりやすい。 

本格的に数学準備をする場合は、難易度順に、 

がよい。

英文であるが、

は、大学院初年度で用いられるミクロ、マクロの数学を丁寧に解説しているので、大学院入学準備だけでなく、入学後も有用である。

動学的マクロ経済分析の数学的基礎として、

がよい。 

(2) ミクロ経済学

最低限のレベルとして、

くらいは読破してほしい。これらを読んでいてどうしても理解できない部分があれば、

などの入門テキストを使って適宜基礎概念を理解していくことが必要である。

大学院入学後の標準的なテキストは

である。MGWは分厚いが、大学院のコアコースで使われるので、入学前に入手しておくことを勧める。ただし、大学院の講義をもとに理解すれば十分である。SSは、Varian より説明が詳しい。
 
契約と組織の経済学については、

が読みやすく、同時に刺激的である。

(3) マクロ経済学

大学院レベルのマクロ経済学にはIS-LM分析はほとんど出てこず、動学的な一般均衡モデルとしての色彩が強くなる。以下の2冊は両者の橋渡しになる。

マンキュウーは大学院マクロの準備に最低限必要である。大竹は基礎学力をチェックするのに便利である。

この上のレベルについては、

が大学院レベルのマクロ経済学の準備に適している。動学的なものの考え方を学ぶのに最適。

標準的な大学院マクロの教科書として、

Romerは技術的な説明が丁寧でわかりやすい。マキャンドレス等は世代重複モデルに基づいたマクロ経済学の解説として優れている。Blanchardはもっとも代表的。
 
経済成長モデルについては、前掲のBarro and Sala-i-Martinがよい。数学的な説明と実証分析が詳しい。
 
注意しておくが、これら標準レベルのものは、大学院の授業で理解すればよいのであって、入学前に理解しておく必要はない。むしろ、新古典派経済成長モデルの基本的な理解をしっかりしておくことが重要である。自分のレベル,バックグラウンドに会わせた本を1冊決めて,それを丹念に読み込むことが大切である。 


(4) エコノメトリックス

学部で統計学を履修しなかった学生は、 

程度を読んでおくこと。

履修済みの学生は、

に進むのも一案。大学院初級レベルの教科書である。

学部でエコノメトリックスの講義を履修しなかった学生は、最低限のレベルとして、

のうち一冊を読んでおくこと。

学部上級から大学院初級として、

がよい。特に応用計量経済学、政策的分析を行う人は必読。

大学院レベルのエコノメトリックスの教科書
 


計量経済学で用いる統計ソフトの解説として


4. 一般向け図書

第一線の経済学者が現実の問題を経済学によってどのように分析していくのかを知ることは、経済学的なセンスを養う上で大変有益である。以下の6冊はそういった目的に適した好著である。著者の思考体系とじっくり対面するというトレーニングが長期的には応用力を養うことになるとともに、砂をかむような(?)基礎学習が経済学になぜ必要なのかを理解できるはずである。